機友会ニュースデジタル版第85回 ロボティクス学科 下ノ村 和弘 先生 「スイス・チューリッヒでの学外研究の報告」

スイス・チューリッヒでの学外研究の報告

下ノ村和弘(ロボティクス学科)

立命館大学の学外研究制度を利用して,2019年4月から9月までの半年間,スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich、以後ETH)に滞在した(写真1)。Roland Siegwart教授のAutonomous Systems Labに受け入れていただき、様々なロボットの自律化技術に関わる研究者と、この期間を過ごした。研究室メンバーは、教員、技術スタッフ、事務スタッフ、ポスドク、博士課程学生と、僕のような訪問研究者で構成されており、40名を超える大所帯である。学生は、ヨーロッパ各国をはじめ、アメリカ、オーストラリア、インド、中国など、まさに世界中から集まっている。普段はそれぞれ自分のプロジェクトに集中して取り組んでいるが、昼時になると、メンバーの多くが連れ立って、学食や、天気の良い日は大学のテラスや近くの公園でランチをとる。この時はみんなリラックスして賑やかである。めりはりや、ラボの連帯感が心地よい、非常に良い雰囲気の研究室である。

写真1:チューリッヒの風景。写真のちょうど中央、少し高い場所にあるのがETHのメインビルディング。

ETHでは、今年の6月に、Center for Roboticsが設立され、学内のロボティクス関連研究者が連携してこの分野の研究をさらに推し進めようとしている。滞在した研究室以外にも、ETHのいくつかの研究室を訪問し、情報交換をすることができた。また、チューリッヒは地理的にも恵まれている。ヨーロッパの真ん中あたりに位置しているため、チューリッヒ中央駅から、スイス国内のみならず、ドイツ、イタリア、フランス、オーストリアなどの周辺の国の都市にも鉄道で簡単にアクセスできる。チューリッヒ滞在中に、CERN(スイス・ジュネーブ)、DLR(ドイツ・ミュンヘン)、LAAS-CNRS(フランス・トゥールーズ)、IIT(イタリア・ジェノバ)などの研究機関を訪問した。同じ研究分野の多くの研究者と交流できたことは、学外研究の大きな成果のひとつであったと考えている。

余暇には、スイスの自然や文化を楽しむことができた。

(1)夏のスイスの魅力はなんといっても山である。と言ってみたが、実はそれまで登山の経験はほとんどなかった。そんな素人でも、アイガーやマッターホルンなどスイスの名峰の名前は知っている。せっかくなので、ということでたくさんの山を歩きまわった。これが噂に違わない素晴らしい経験だった(写真2)。

(2)チューリッヒのオペラハウスは定評がある。と言ってみたが、実はそれまで本格的なオペラやバレエは観たことがなかった。たまたま誘ってもらってバレエを観に行ったのをきっかけに、すっかりはまってしまい、シーズンが終わるまで時間を見つけてはオペラハウスに通った。ただし、一番安いチケットばかり買っていたので、立ち上がって背伸びをしないと舞台が見えず、足がつってロミオとジュリエットの肝心なシーンを見逃したのは大きな不覚であった。

(3)スイスワインは隠れた名酒である。と言ってみたが、実はそれまでスイスのワインを飲んだことはなかった。日本では見たことがないものの、レマン湖北側一帯のブドウ畑は世界遺産であり、実は隠れている訳でもない。今年、ヴェヴェイというレマン湖沿いの街で、20年に一度のワイン祭りがあり、それに参加できた。ワインも雰囲気も素晴らしかったので、それをETHの研究室メンバー(ドイツ人)に話したら、「ドイツでもワイン祭りはたくさんあるから、そんなもの別に珍しくない」と、ものすごい剣幕で否定された。ドイツ人の前で、スイスワインを褒めない方が良いということを学んだ(おそらく人による)。もちろん、ドイツのワインも素晴らしい。

写真2:マッターホルンを望む、ゴルナーグラートからツェルマットへのトレッキング。

チューリッヒでは、多くの人に助けられ、ETH内でも外でも非常に快適に過ごすことができた。アインシュタインが学んだ頃から伝統的な、多様性を受け入れるチューリッヒの「自由と寛容」(と自己責任)の文化は、居心地が良かった。人以外では、Google map、ヨーロッパ中の鉄道チケットが購入できるアプリOmio、スイスの鉄道会社SBBのアプリ、ホテル予約サイトAgodaに大変お世話になった。日本国内でもそうではあるが、国外の、それも非英語圏では特に、どこかを訪問するための準備時間を著しく削減してくれた。また、日本にいる研究室メンバーや共同研究者とは、電子メールはもちろん、SlackやSkypeを用いてコミュニケーションをとった。これらのツールがなければ、同じ期間でもできたことはもっと少なかったかもしれないと思う。研究でも、研究以外でも、「巨人の肩の上に立つ」ことで、見通しをよくできていることを実感する。

最後になりましたが、この学外研究の間、様々な面でご協力やお気遣いを賜りました先生方、職員の皆さん、研究室のスタッフと学生の皆さんに、心から感謝いたします。

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