機友会ニュースデジタル版第31回 中野 廣 氏(昭和32年機械工学科卒業)           「立命館・その情景」

「立命館・その情景」

昭和32年機械工学科卒業 中野 廣

 私は1957年機械工学科卒です。当時、立命館大学は「リッチャン」と渾名されていて、あまり良い大学ではありませんでした。入学したときのことです。4年生が新入生に集合をかけて「こんなしょうもない大学へよく来たね」と言ったのです。そして様々な問題点をあげました。しかし最後に「だから私はこの大学を良くしたいと思う。君たちも協力するように」と締めくくったのです。大学側が言うのでなく同じ学生がです。今日、立命館大学は大いに発展しました。これは関係者の皆さんの努力もありますが、このきっ掛けを作ったのは、先頭だってびわこキャンパスづくりに奔走する等、大学を改革した大南正瑛先生だと思います。先生は「夢は実現するもの」とよく言っておられますが、学生時代に大いに語った夢を実現されたのです。

先生との関りで一番印象に残っている出来事は、大阪産業大学で経営学部の教員をしている頃のことです。人間環境学部を創設するにあたり、初代の学部長を命じられ、承認を得るために文科省への交渉に通っていました。承認を得るためには趣旨やカリキュラム、担当教員その他の審査を受けねばなりません。審査は有名大学の学長3名が主査・副査を務め、あとは文部官僚が居並ぶ中で質問を受けるものです。いよいよ翌年の4月には開校しなければならないという年末の最終審査でびっくり、正面の主査席に大南先生がおられるのです。そして代表して質問をされました。ありがたいことに、その夜に承認された由の連絡を受けました。

私の卒業の頃は就職難でしたので、和江商事(後のワコール)という小さい会社に入社しました。商事会社が初めて工場を造るというので採用されたのです。したがって上司は「君に何をやってもらったら良いのか分からない」と言ったものです。仕方がないので工場管理の本を引っ張り出して、工場づくりのために試行錯誤を始めました。こんな状況ですから、その後10年間は理系の採用はありませんでした。おかげで自由にできたので、技術部、研究所、国内外の工場づくりができました。さらに専門の枠を超えて、経営に関しても提案し、改善を図ったものです。そしてその間、通産省でアパレル産業システム化対策委員長など外郭団体も含め約8年間、国の行政の一端にかかわることもできました。また藤谷先生からの依頼で、衣笠キャンパスで二部の非常勤講師も経験しました。退職後は大阪産業大学で定年まで12年間過ごしましたが、その間に岸和田市や泉大津商工会議所などの産業ビジョンづくりに参加し、委員長を務めるなど地方行政にも関わることができました。ところで、専門らしい仕事についてですが、当時すでに開発済みでしたが、用途に苦慮されていた形状記憶合金をブラジャーに応用したことです。出来合いのものでは高価すぎて使えないので、金属メーカーとの協同で有用性、有効性、安全性などの特性を検証し、十分の一までコストダウンをすることができたのです。フランスのTVなどで紹介されましたが、科学技術庁の伊藤宗一郎大臣に呼ばれ説明をしたことがあります。いろいろ自慢たらしく述べましたが、申し上げたいことは、企業に就職する場合、一つの専門だけで済ませられないということです。機械は学んだだけですが、経営工学、人間工学、感性工学を専門とするようになりました。川村先生もかつて学生の指導にあたって「ロボット専門だけの危険性」を指摘されていました。またノーベル賞受賞者の田中耕一氏も「Π型の研究者が望ましい」とパラレル思考型を推奨されています。同氏の研究成果は2つの専門による発想だったというのです。

*科学技術庁の長官室で伊藤大臣に説明

次に立命館の学生とのふれあいですが、大学教員の退職後、衣笠キャンパスで模擬面接というかたちで5年間、就職の指導をしました。企業や教育、国政、地方行政にかかわっていた経験が活かせました。文系の学生が主ですが、中には世界学生平和会議をリードするようなすごい人がいました。ある日、理工学部の学生が面接にきたのです。彼の第一志望は銀行でしたが、自分ですでに簿記の2級の資格を取っていました。大学によってはこの資格で経営学部へ特技合格が可能なぐらいです。専門を活かすいい方法だと思います。

機友会との関りは、酒井先生や坂根先生のお力添えで京都支部長を5年間務めましたが、母校に対する思いを強く持つことができました。特にBKCができる前後の機友会は熱い思いに満ちていたように思います。今はかつてのように明確な目標は考えにくいかもしれませんが、津田会長なら機友会が立命館とOBのさらなる発展へと導いてくださるものと期待しています。私は高齢もいいとこの年齢ですが、先般、仲間と「面白サイエンス繊維の科学」を日刊工業新聞社から出版しました。年寄でもできることであれば、お手伝いをさせていただくつもりです。

*京都支部の役員会

*出版物「面白サイエンス繊維の科学」

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