機友会ニュースデジタル版 第9回 ロボティクス学科 下ノ村 和弘 先生 「ドローンの現状と応用研究」

「ドローンの現状と応用研究」
 

1.ドローンの産業応用の現状
「空撮」は既にビジネスになっている。例えば、土木測量ではドローンは欠かせないツールである。農業では、従来からの農薬散布に加えて、広い圃場における作物の生育状況を空撮により調べるなど、今後利用が広がることが予想されている。商業利用としての次のターゲットは「輸送」である。日本では特に、ネット通販の拡大でキャパシティがひっ迫する宅配への利用、僻地や島しょへの物資の輸送など、物流の新しい担い手として検討されている。実現のためには、飛行する多数のドローンを管理する運航管制システムと、何らかのトラブルにより機体が落下した場合の安全対策が必須であろう。もう少し先の実用を目指した使い方として、ドローンによる「作業」がある。インフラや建築物の保守点検をはじめ、危険な高所作業を人が行っている場面は多い。ドローンで代替できれば、作業効率向上、コスト削減につながる。

2.高所作業を行う飛行ロボットの研究
ドローンをベースにした飛行ロボットによる作業の実現を目指した研究を、本研究室で行っている。ロボットハンドやアームを取り付けたドローンにより、高い場所で物を掴んだり、捩じったり、摘まんで移動させることができている。ドローンの機体上部に取り付けた車輪により構造物の天井面を移動するロボットは、上下方向の移動自由度を犠牲にする代わりに、ホバリング状態に比べて格段に高い水平方向位置決め精度をもつ(写真)。これをもとに民間企業で改良機が作られ、実際の建築物保守作業の現場で使われた。

3.ドローンを使った研究を始めたきっかけ
ドローン専門家のような顔で文章を書いてきたが、ドローンを使った研究を行ってきたのはまだわずか5年ほどであることを白状する。私の専門は画像センシング、ロボットビジョンであり、ドローンを三次元移動台車として利用している。地上移動台車に比べると、ドローンは、移動速度が大きい上に、風などの外乱を常に受けるため、センサ情報処理や制御のレートを高くする必要がある。その一方で、可搬重量が小さいため、特に小型のドローンではカメラやコンピュータを含む搭載機器への要求はシビアである。この点で、もともと研究テーマであった高機能イメージセンサや組込み画像処理システムとの相性が良い。当初、ドローンに興味をもった学生がひとりで担当して研究を開始したが、毎年担当する学生が増え続け、今では研究室の主要研究テーマのひとつとなった。また、同じロボティクス学科の平井研究室や小澤研究室でもドローン関連の研究が進んでおり、情報交換しながら研究できる環境も幸いした。
現在のところ、ドローンでできる作業はまだ多くない。作業の種類や、作業可能な状況を広げるために、多くの積み上げが必要である。“宙に浮く”ドローンを使った研究であるが、“地に足を着けて”進めていきたい。

4.ドローンに関する情報源、その他
・多くのドローン専門情報サイトがある。DRONE MEDIA(http://dronemedia.jp/)やDrone Times(https://www.dronetimes.jp/)などが情報量が多い。ドローン関連の動きは非常に活発である。高画質の美しい空撮映像は、見ているだけでも楽しい。
・商業利用だけでなく、ドローンを趣味で使う場合でも、関係する法規に注意が必要である。主には、航空法と電波法である。
国土交通省「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
総務省「ドローン等に用いられる無線設備について」
http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/drone/
・本稿では、一般に通りがよい「ドローン」という言葉を使った。研究では、ドローンという言葉が使われることは少なく、無人飛行体であることを指してUAV(Unmanned aerial vehicle)、複数のプロペラをもつ構造を指してマルチロータ型ヘリコプタ、マルチコプタ、マルチロータ型飛行ロボットなどの言葉を使う。

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