「カメラと電気自動車」

機械工学科 村田 順二

 

機友会会員のみなさま、こんにちは。機械工学科教員の村田順二です。

2019年度新任教員として、5月に機友会ニュースに寄稿しました。あと数年は回ってこないだろうと油断していたところ、ひょんなことから、わずか半年で再び筆を執る機会を得ました。

前回は「コーヒーのさいえんす」と題した原稿を書きました。失礼ながら、「誰も読まないだろう」と高をくくって好き勝手書いたのですが、意外(?)にも「読んだよ」との声を、学生を含む数名の方から頂きました。その中で私の研究室を訪問された方はコーヒーを楽しみにされていたようですが、たまたま豆を切らしていたので落胆させてしまうことになり恐縮しました。なお、家族に原稿を読ませたところ「新任教員の自己紹介として全く相応しくない」と不評を買ったことを申し添えます。

さて、今回の寄稿では何を書き記そうかと正月休みを利用して頭をひねりましたが、懲りずに私の研究内容とは関連性に乏しい「カメラ」の話題をご提供したいと思います。

昨今では、スマホのカメラが高画質化したことに伴い、カメラを所有しているという方はむしろ珍しいのではないでしょうか。一方で、機械工学に携わる皆さまの中には「カメラ小僧」も少なからずいらっしゃるのではと想像します。私も(腕はからっきしダメですが)カメラ好きの一人です。

私が中学生か高校生ぐらいには「写ルンです」と呼ばれるフィルム一体型の使い捨てカメラが流行しました。教員になってから、何かの講義で「写ルンですなんて、君たちは知らないだろうけど・・・」という話をしたところ、最近再び脚光を浴びているということをある学生が教えてくれました。スマホなどで撮る写真に比べ、フィルム独特の風合いがあり「インスタ映え」する写真が撮れることがその理由だそうで、フィルムカメラを所有したことのある私は、確かにそうだと納得がいきました(図1)。

図1 モノクロフィルムで撮影した写真(筆者撮影)。ノスタルジーを感じませんか?

私が初めて一眼レフを購入したのは大学院生であった今から12,3年前でした。研究室にカメラ好きの先生がいらっしゃったことや、社会人ドクターとしてN社の社員が出入りされていたこともあり、学生の間でプチカメラブームが巻き起こったのです。私が購入したカメラもN社の当時最も安価なデジタル一眼レフでした(図2)。レンズ付きで4万円程度でしたが、貧乏学生にとっては高価であることには変わらず、ヨドバシカメラでの支払い時に「12回分割払い」と店員に伝えたところ、ずいぶん驚かれたことをいまだに覚えています。

図2 初めて購入した一眼レフカメラ

購入したばかりのカメラで意気揚々とシャッターを切り続けました。一眼レフながらコンパクトなボディから発せられる小気味の良いシャッター音に魅了されました。ところが、出てくる写真は平凡なそればかりでした。腕に問題があったことは想像に難くありませんが、それを棚に上げて、レンズに解を求めてしまったのです。これが俗に言う「レンズ沼」への入り口でした。(註:「レンズ沼」とはレンズの世界に足を踏み入れると抜け出せなくなり、次から次へと新しいレンズを欲することを意味するカメラ用語)

購入したものは中古の安レンズでした。マニュアルフォーカスであるためリングを手で回してピントを合わせます。このレンズは背景に盛大なボケを生み出してくれました(図3)。なお、ボケは英語でもBokehとよばれます。カメラやレンズが、世界に誇る我が国の精密機械技術であることが伺い知れます。大きなボケに満足した私は色々なレンズに手を出すことになりますが、長くなるので割愛します。

図3 マニュアルレンズ(Nikon Ai micro 55mm F2.8)で撮影した写真(筆者撮影)

さて、カメラにとってのシャッター音は、車にとっての排気音に相当すると感じることがあります。シャッターを切った際にカメラから発生する「ガシャ」という音は、撮る人に高揚感を与えてくれます。カメラファンにとってシャッター音は購入するカメラを選定する際の重要なファクターだと思っています。スマホから電子的に出される音では興ざめしてしまいます。

ところが、昨今ではミラーレスとよばれるカメラが一眼レフを駆逐する勢いで成長を遂げ、シャッター音も変わりつつあります。従来の一眼レフではレンズからの光をファインダーに導くための鏡(ミラー)がカメラ内部に存在します。シャッターを切るとミラーが上下するのですが、その機構から発せられた音が、堅牢なカメラボディ内で反響して魅力的なサウンドとなります。かたやミラーレスカメラは文字通りミラーがないので、シャッターを切っても動作する機構が少なく、シャッター音が小さいのです。大人しすぎるといってもいいでしょう。音が小さいほうが都合のよいことも多いのですが、どうもしっくりきません。車で例えるならば、マフラーから発生する野太いエンジンサウンドが、電気自動車で無音に変わったような感覚です。私と同じような感想を持っているカメラファンは多いのではないでしょうか?

車で言えば、魅力的なエンジンサウンドに関する研究も行われており[1]、このような範疇の学問は感性工学とよばれます。ミラーレスカメラにおいてもそのような取り組みが行われているのかもしれません。コンシューマープロダクトは製品の性能もさることながら、人の感性に訴えかけるものがなければ手に取ってもらえないところに、難しさと奥深さがあるように思います。

私のカメラ歴はN社に始まり、F社、P社のミラーレスを経て、途中でフィルムカメラに寄り道し、現在ではC社の一眼レフに落ち着いています。被写体も変わり、これまで人物は全く対象となりませんでしたが、現在では二人の子供の専属カメラマンといったところです。カメラ熱も以前ほどではなく、スマホでササっと撮影してしまうこともたびたびですが、ここぞというときはやはり一眼レフを構えます。これは、研究で装置やサンプルの写真を撮影するときにも役立てています。

2020年はオリンピックイヤーですから、新しいカメラが続々と登場することが予想されます。しかも東京での開催ですから、カメラメーカー各社の熱の入れようも相当なものと想像されます。(この原稿を執筆した前日にもC社とN社がそれぞれ新たな一眼レフの投入を発表しました。)

最後に、カメラやレンズはわが国が依然として高い世界シェアを有する製品であり、機械系エンジニアが活躍できるフィールドでもあります。私たちを楽しませてくれる驚くべきカメラの開発に携わるエンジニアが、本会の学生会員から誕生してくれればと願っています。

文献

[1] 近藤孝ほか、感性工学を活用したエンジンサウンドデザイン:-「木」をコンセプトとしたケーススタディ-、日本感性工学会論文誌(2019)

機友会ニュースデジタル版第93回 村田 順二 先生「カメラと電気自動車」