研究と現場の両立

ロボティクス学科教授 馬書根

 

ロボティクス学科の馬書根です。2005年に立命館大学COE推進機構の教授として着任し、2008年よりロボティクス学科の教授として「生物知能機械学」(http://www.malab.se.ritsumei.ac.jp/)という新しい研究室を立ち上げて、生物の優れた機能や動きを応用するバイオインスパイアードロボティクスの研究、及びよりシンプルかつ効率的に動くロボットの開発・研究を行ってきました。

生物は極めて多くの自由度を持つ身体とそれに対応する知能を有しており、複雑・多様・動的な環境やタスクに柔軟・迅速に対応することができます。例えば、蛇は人間のような足や車のような車輪を持たないにもかかわらず、速いスピードで動くことができます。とても不思議で、どうにかその動きを解明し利用できないかと考えました。私たちは蛇の身体・知能をロボットで実現するために、蛇型ロボットを研究対象としてきました。過去の研究資料を調べ、実際に生きた蛇を飼ってその動きをまず観察しました。そこで分かったことは、「蛇は体をくねらせることで体全体を体幹に沿う方向にスライドさせながら前進する」ということです。その動きを研究し、複数の関節ユニットの接続関節の回転運動だけで蛇行移動できる蛇型ロボットの開発を進めてきました。蛇型ロボットは細長い体幹で構成されているため、まず災害現場などでの応用が考えられ、倒壊した建物や折り重なった瓦礫の隙間など、人間が入れない場所に侵入し災害者の探査作業を担うことが想定されます。また、蛇型ロボットは一本の紐のように細長い構造のため防塵防水対応にしやすく、車輪ロボットや脚ロボットより地面との接触点圧が小さいため、水田でも楽に移動できる可能性があります。こうした蛇の動きや機能をロボットとして再現するための研究を進める一方、生体ニューロンの働きを解明して、ロボットの制御に生かす研究も進めています。これまでの蛇型ロボットでは、一つのコンピュータのみでその動きを制御する方法が一般的でしたが、私たちは各関節ユニットに一つずつ小さなコンピュータを搭載して、互いに電気信号をやりとりするだけでロボットが動く仕組みも研究してきました。現在、開発した蛇型ロボットを用いて中高生を含む学生さんに、いくつかのプログラミング実習教室を2012年から毎年実施し続けています。「生物の蛇は一本の紐のような単純な体であるにもかかわらず、なぜ滑らかに移動することができるのか」という問いを投げかけ、その不思議さを三角関数の知識に基づきながら体験してもらっています。なお、街の科学館にて展示と実演を行い、蛇の不思議さを理解させるために蛇型ロボットを子供の夏学習用にも提供してきました。

 

 

 

 

 

 

写真1:伸縮可能な蛇型ロボットと3次元蛇型ロボット

写真2:未知環境を探査するための蛇型ロボット

写真3:蛇型ロボットの演示? (浜松科学館にて)

しかし、長年複雑な蛇型ロボットを研究してきた結果、蛇型ロボットは様々な応用の可能性がありながら、教育以外の実応用とのギャップがかなりあると感じていました。多くの現場の方と議論した結果、やはりシンプルな技術でないと現場では使いにくくなかなか活躍の場もありません。そこで、私たちはいかに少ない部品でこれまで不可能といわれてきた動きを再現するかを追求し、同時に、より実用的なロボット技術の開発にも取り組むようになりました。その一つの例として空調ダクト清掃用ロボットが挙げられます。このロボットは「へ」の字の形をした2リンクの機体に六つの特殊な車輪を搭載し、その先端などに装備したブラシを回転させて管内の汚れを落とします。このロボット技術は、既に某企業で運用検証を行っており、2017度の実用化を目指しています。同様の原理でガス管内検査ロボットの研究開発にも着手していて、実用化に向けてユーザー企業と共同で積極的にプロジェクトを進めています。その他にも複数の産学連携プロジェクトを並行して進めているほか、劣駆動グリッパーや全方位移動車など、実用化に向けた研究開発を行っています。

以上のように、「様々な可能性を秘めている面白い研究」と「現場での実用化」は相反することのようにも思えますが、実は互いに深く関係し合っています。長い年月をかけてじっくりと蛇型ロボットの研究に取り組み、たくさんの蓄積があったからこそ、どこまで機構を単純化できるか、ボトルネックは何なのか、目的を達成するための最適な構造は何なのかなどを経験による直感や解析による裏付けによって判断できるようになります。何年続けてもまだまだ勉強しなければならないことが山ほどありますが、両方のニーズに応えながら研究と現場の両立を目指して引き続き努力していく所存です。

写真4:空調ダクト清掃検査ロボット

写真5:管内検査ロボット

写真6:劣駆動グリッパー

今年はロボティクス学科で生物知能機械学研究室を立ち上げてから10年目になります。これまでに私の研究室から博士課程後期課程を8名、博士課程前期課程を32名、学部卒業生を67名輩出しました。多くの優秀な学生さんに恵まれ、合計200本以上の研究論文を発表し、特許も7本出願することができ、多くの研究成果を残せたと自負しています。この間、学生さんの発表した論文が国際会議や国内の学会などで表彰を受けるなどをし、たくさんの賞をも頂きました。また、日本学生支援機構大学院第一種奨学金の特に優れた業績による返還免除資格者もこれまでに5名輩出しました。これからも社会で活躍できる卒業生を送り出し続けるためにも、機械システム系OBの皆様のご協力が不可欠だと考えております。立命館大学機友会の益々のご発展をお祈りするとともに、今後ともお指導ご鞭撻のほどよろしく願いいたします。

機友会ニュースデジタル版第25回 ロボティクス学科 馬書根 先生 「研究と現場の両立」